はじめに
3年前から愛用しているソニーのハイレゾオーディオ、HAP-S1の紹介です。
いつまでも聴いていたくなる、心地よいサウンドです。
HDDオーディオ
HAP-S1は、2013年10月に発売されたソニーのHDDオーディオプレーヤーシステムです。
500GBのHDDを内蔵していて、音楽をすべてこのHDDに保存し、HDDから読み出して再生するのが特徴です。
昔の話
実は、ソニーのオーディオ製品で、HDDに音楽をストックするというコンセプトの商品は、2006年発売の「HDDコンポ」や2007年発売の「NETJUKE」にさかのぼります。
当時、
「気に入った音楽をHDDにどんどんため込んで、聞きたい曲を自由に聴けるのがいいな。いちいち、CDやMDを取り替える必要もないし。」
と思って、買う気満々で実家近くのヤマダ電機に足を運びました。
私は、中学高校と吹奏楽部にいましたし、最初に就職した会社が電子楽器メーカーだったこともあり、音にはそれなりのこだわりがあります。
♪デンデンデンキは ヤマダだな~♬
の音楽やいろいろなノイズが混ざった店内で、「NETJUKE NAS-D55HD」の音を試聴しました。
「うぅん、なんじゃこの音は?」
というのが第一印象。
他のメーカーの同価格帯のオーディオセットも試聴しましたが、聴き比べするまでもなく、音が悪すぎました。
(ソニーさん、購入したユーザーの皆さん、ごめんなさい。)
「HDDに音楽をストックする」というコンセプトは良かったのですが、肝心の音質がダメダメでは、買う気がまったく起こらず、そそくさと店を後にしました。
HDDオーディオプレーヤーシステム HAP-S1
それから数年が経ち、2010年頃から流通し始めたハイレゾ音源も世の中に浸透してきました。
そんな中、ソニーから発売されたHDDオーディオプレーヤーシステムがHAP-S1です。
会社の帰り道、ヤマダ電機 LABI品川大井町店に寄って試聴します。
「うぅん?」
「あれっ?」
6年前に聴いた「NETJUKE NAS-D55HD」の音とは、まったく別物です。
ちょっとアンプのボリュームを上げて聴き込みます。
さらに、いつものように売り場の他のメーカーの商品とも聴き比べます。
HDDに内蔵された音楽しか聴けないので、同じサンプルCDの音源での聴き比べはできませんが、音質を聴き分けるために全神経を耳に集中します。
「やっぱり、この音いい!」
結局、
「いい音だな。」
「聴いていて気持ちいいな。」
と感じたのが、このHAP-S1とJVCケンウッドのネットワークアンプ A-K905NTでした。
信号処理でハイレゾ化
どちらも、圧縮音源やCDクオリティの音楽信号に対して、ビット拡張と周波数帯域拡張の処理を内部で行い、ハイレゾ化する機能が搭載されています。
この機能、HAP-S1は「DSEE」、A-K905NTは「K2テクノロジー」と呼んでいます。
この機能のOn/Ofの音質の差についても聴き比べしましたが、A-K905NTの方が「K2」をOnにすると広域が伸びるだけでなく、左右の音源の定位がぐっと広がり、効果が良くわかりました。
「K2テクノロジー」は、音楽スタジオのマスタリングでも使われているデジタル高音質化技術です。
詳しくは、以下のページを見てください。
HAP-S1とSS-HA1を購入
いろいろ悩んだ挙句、念のため有楽町のビックカメラの売り場でも聴き比べした結果、最終的には、HAP-S1を購入しました。
決め手は、以下のポイントです。
- 飾らない音質。
- 正面に4.3 型のフルカラー液晶が搭載されていて、再生中の音楽のジャケット写真が表示できたり、操作がビジュアルでわかりやすい。
- スマートフォンやタブレットのアプリが使いやすそうだった。
スピーカーは、同じくソニーのハイレゾの音域が再生できるSS-HA1 Sを合わせて購入しました。
音質
一番重要な音質に対する感想です。
購入するまで、
「HDDやら液晶やらWi-Fiやらデジタルのブロックが多いので、デジタルノイズの影響ないのかな?」
と心配していたのですが、この点は、まったく大丈夫でした。
まず、私にとって最も聴く機会が多いCDフォーマット(44.1kHz/16bits)の音源の音質ですが、立ち上がりがくっきりした、気持ちの良い音です。
グランドピアノの天板を指でコツンと叩いたときのような、固く引き締まった音質です。
以前、ソニーのオーディオは、低音と高音を不自然に強調したドンシャリ(ドンは低音、シャリは高音)の音のイメージがあったのですが、最近のハイレゾオーディオは、引き締まったいい音に変わりました。
一緒に購入したSS-HA1 Sとの組み合わせで気持ちよく鳴ってくれるので、いつまでも聴いていたい音です。
あと、良くも悪くも、飾ることなく音源の素性をそのまま聴かせてくれます。
オリジナルの演奏や録音がいまいちだと、それなりの音にしかなりませんし、クオリティの高い音源は、とっても気持ちよく艶やかに聴かせてくれます。
このHAP-S1で聴くと、演奏のレベルだけでなく、録音のクオリティもバレバレですね。
コンプレッサーを下手に使いすぎて、演奏の音圧を限られたレンジに押し込めているような音源は、味気なく人工的に聴こえます。
この特徴は、後で説明する「DSEE」をOnにしても変わりません。
低位相ノイズ水晶発振器
音質を決める要因は、トランスやコンデンサやパワーFET、基板の材質や部品のレイアウトなど多岐に渡りますが、私個人としては、
「クリスタルを変えたのが。結構効いているのでは?」
と勝手に思っています。
「CEATEC JAPAN 2012」に行ったとき、あるデバイスメーカーのブースで、ジッターの少ない水晶振動子がオーディオセットの音質改善に有効であるというデモをやっていました。
デモを担当していたデバイスメーカーのエンジニアの話によると、
「同じオーディオセット2台のうち1台の水晶振動子を剥がして、ジッターの少ない水晶振動子に載せ替えただけ。」
とのことでしたが、明らかにジッターの少ない水晶振動子に載せ替えたセットの方が、音が澄んでいて、
「デジタルオーディオの音質は、マスタークロックのジッターに大きく左右されるんだな。」
という印象を強く持ちました。
このことは、以下、ソニーのページにも「低位相ノイズ水晶発振器」として記載されています。
スピーカーシステム SS-HA1のこだわり
ハイレゾの音域である50kHzまで再生可能なSS-HA1 Sも良くできていると思います。
私は、マンション住まいで、専用のリスニングルームなどを持ち合わせているわけではないので、大音量で音楽を鑑賞できる環境ではありません。
SS-HA1 Sは、中くらいの音量でもしっかり鳴ってくれ、12畳のリビングルームで聴くには十分です。
実は、最初にヤマダ電機 LABI品川大井町店の売り場で聴いたとき、HAP-S1とSS-HA1 Sの上位モデルにあたるHAP-Z1ESとSS-AR2のセットも展示されていて、上位モデルとも聴き比べしたのですが、中音量では、HAP-S1とSS-HA1 Sの音の方が勝っていました。
このSS-HA1 Sには、高音域用のスーパーツイーターが正面だけでなく、上面にも付いています。
これは、指向性の強い高音域の音を広範囲に伝える工夫です。
また、バッフル版は、上部左右の角が切り落とされたような特徴のある形状です。
これも、上面に取り付けたスーパーツイーターからの音が、バッフル版の角で回折しない工夫だそうです。
さらに、スピーカーのキャビネットの振動で発生する高音域のノイズを最小限に抑えるため、キャビネットにはアルミの押出し材が使われています。
その他のこだわりポイントも含めて、詳しくは、以下の「ハイレゾスピーカー 開発者インタビュー」を参考にしてください。
ハイレゾの音質
オーディオセットの素性の音質が良くないと、音源がハイレゾになってもセットから出てくる音は良くなりません。
上でも書いたようにHAP-S1は、音質重視で設計されているので、この点は大丈夫です。
では、ハイレゾ音源の音質はどうでしょうか?
もちろん、
「ハイレゾの音質も文句なし!」
です。
この後説明する、高品質のハイレゾ音源のサンプル曲が、CDフォーマットに比べて格段に広くなったダイナミックレンジと周波数帯域の中で、伸び伸びと鳴ってくれます。
私が中学生の頃、音質が格段に向上したコンポーネントオーディオを聴いたときのような感動です。
サンプル曲
HAP-S1には、購入した時点で、DSFフォーマット、FLACフォーマットのハイレゾ音源のサンプル曲が収録されています。
グループ会社にソニー・ミュージックエンタテインメントがある強みで、このサンプル曲にも厳選された珠玉の音源が収録されています。
私が購入したときに収録されていたサンプル曲は以下のとおりです。
- Blood,Sweat & Tears:Spinning Wheel
- Elephant Revival:Don't Drift To Far
- GrandKey:bouquet
- GrandKey:forget you
- GrandKey:Love letter
- Herbie Hancock:Watermelon Man
- James Taylor:Your Smiling Face
- Lara Ruggels:Snowflake
- Luther Vandross:Never Too Much
- Miles Davis:So What
- Santana:Black Magic Woman - Gypsy Queen
- The Dave Brubeck Quartet:Blue Rondo A La Turk
- Willie Nelson:Georgia On My Mind
- Wynton Marsalis:Lazy Afternoon
- Yo-Yo Ma, Edgar Meyer, Mark O'Connor with special guests James Taylor and Alison Krauss:Cloverfoot Reel
ハイレゾにリマスタリングされた名盤と言われる音源を改めてじっくり聴くと、オリジナル音源の演奏や録音のクオリティの高さに敬意を感じます。
同時に、ハイレゾフォーマットの可能性や懐の広さも実感できます。
というか、
「今までの音楽は、窮屈なCDフォーマットに閉じ込められて、苦労していたんだな。」
と思わざるを得ません。
実際に聴いてもらわないと伝わりませんが、「Willie Nelson:Georgia On My Mind」の朗々と響き渡るボイス、「Miles Davis:So What」のサックスやブラスのタンギングノイズ、「Herbie Hancock:Watermelon Man」の冒頭のパンフルートのブレス音、どれも、オリジナル音源のクオリティにハイレゾの強みが加わって、音楽の素晴らしさを再認識しました。
「DSEE」の効果は?
上にも書いた、デジタル信号処理で通常の音源をハイレゾ化する「DSEE」の効果はどうでしょうか?
「DSEE」をOnにすると、高音域が伸びてクリア感が増します。
とは言っても、「DSEE」は、20kHz以下の周波数成分から、もともと記録されていない20kHz以上の音を推定で作り出すため、やはり、ハイレゾとしてリリースされている音源にはかないません。
その後、ソフトウェアのバージョンアップで、「DSEE HX」もサポートされました。
「DSEE」は、20~22kHzまで周波数成分を拡張していたのにに対し、「DSEE HX」は、40~50kHzあたりまで拡張しているそうです。
「DSEE」と「DSEE HX」の違いも、聴き比べればちゃんとわかります。
ただし、「DSEE HX」はちょっとやりすぎ感があるので、私は、「DSEE」の方が好きです。
設計者もいろいろ試行錯誤して、最終的には「DSEE」がベストポイントと判断して発売したものの、その後、「DSEE」をもっとアピールできるようにという声に押されて、「DSEE HX」が出てきたのかな。
そういう意味でも、HAP-S1は、いいバランス感覚で設計され発売されたモデルなのではないでしょうか?
20kHz以上の音は聴こえるのか?
ここまで、ハイレゾの音質や「DSEE」のことについて書きましたが、そもそも、人間に20kHz以上の音は聴こえるのでしょうか?
聴こえているかどうかはわかりませんが、私の個人的な感覚で言うと、間違いなく感じることはできています。
一部には、
「20kHz以上の高音域は、皮膚で感じている。」
という説があるそうです。
また、真偽のほどはわかりませんが、
「ハイレゾの音を聴くと脳機能が活性化してα波が増加する。」
という以下の記事で紹介されている研究もあります。
この記事に書かれているように、脳波にα波が増えるのは、ハイレゾの音をスピーカーで聴いたとき、すなわち、空間で聴いたときだけで、ヘッドホンのように、耳だけで聞いても効果がないそうです。
個人的な感覚で、なんの根拠もないのですが、確かに、ハイレゾの音楽を聴いていて、気持ちが良くなるのは、スピーカーで聴いているときです。
ギターの弦を弾く音やパルシブなパーカッションの音が鳴るとき、脳幹がビビッとしびれるような、心地よい感覚があります。
さらに、私の場合、かなりの音量で音楽が鳴っているのに、気持ちよくなって、ソファーでガァガァ寝てしまうこともしょっちゅうあります。
この記事でも紹介されていますが、アナログのレコードで音楽を聴いていた時代は、最終的なマスタリングの音源が完成したとき、
「なんか、ちょっと物足りないなぁ。」
と感じたら、レコードの原盤をカッティングするときに、イコライザーで50kHzあたりをブーストするという、レコーディングエンジニアの裏技があったそうです。
これも、アナログレコードを聴いて育った世代の私には、CDの音に足りないものを感じる実感としてわかります。
自然の音には、20kHz以上の高周波成分が多く含まれているのに対し、都会の環境音には、20kHz以上の高周波成分がほとんどないそうです。
もし、これが本当なら、サプリメントのようにハイレゾ音源で20kHz以上の高周波成分を補う必要があるかもしれませんね。
パソコンがある方が便利
このHAP-S1は、音楽をHDDに保存する必要があります。
ソフトウェアのバージョンアップで、本体背面のUSB端子に、外付けCDドライブを接続することで音楽CDを本体のHDDに直接リッピングできるようになりました。
しかし、一度、PCにリッピングした音楽データを、HAP-S1に内蔵されているWi-Fiを通して無線で転送するか、背面に接続するLANケーブルを通して有線で転送するかした方が。音楽データの管理がやりやすいと思います。
なので、パソコンがある方が便利です。
パソコンの特定フォルダに保存されている音楽ファイルを自動転送する使い方もできますが、パソコンからは、HAP-S1のHDDがネットワークドライブに見えます。
私は、Windows10のエクスプローラで、通常のファイルのように、音楽ファイルをHAP-S1に直接コピーしています。
スマートフォンとタブレットのアプリ
私は、iPhone6とXperia Z3 Tablet Compact Wi-Fiモデルに、HAP-S1のコントロールアプリ「HDD Audio Remote」をインストールして使っています。
やはり、手元のスマートフォンやタブレットの広い画面で、グラフィカルに操作できるのは、とっても便利です。
なんせ、寝っ転がっても操作できるわけですから。
まとめ
実は、私、HAP-S1の音質と使い勝手が気に入って、大阪の自宅だけでなく、東京の単身赴任先用にも2台目のHAP-S1を購入して使っています。
単身赴任先の部屋は、少し狭いので、スピーカーだけは、SS-HA3/Bにしました。
HAP-S1とSS-HA1 Sのセットで約12万円ほどの値段になり高額ですが、もし、
「いい音でじっくり音楽を楽しみたい。」
「コンパクトで音質にこだわったオーディオセットを探している。」
「ハイレゾ対応のオーディオが欲しいんだけど、どれを買っていいのかわからない。」
と思っている人がいれば、このオーディオはおすすめのモデルです。
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